最近映像メディアを見ていると、必ずと云って良い程どこかで文字を動かしています。 ニュースやスポーツ番組のタイトル、CMなどで最も多く見られます。これらの情報は基本的にはタイトルや 商品名のみ表示すれば済んでしまう話なのですが、それでは余りにも芸がないので美的に組んで一つの作品 と呼べる域の物を見せています。
この動く文字表現:モーションタイポグラフィは、背景やその他の文字情報を含めて、最低限必要な情報 に、関連する膨大な量の情報を短時間で表示し、読んで理解させるのではなく感覚的に解らせてしまう効果 を持っています。見る側は出てきた情報を全て読む必要はなく、漢字や英単語など理解しうる情報のみに勝 手に反応して何の情報が表示されているのかを読み解いていくことになり、最終的には作者のもっとも見せ たかった情報に半強制的に注目させられてしまいます。
理解しようと思って素早く流れていく文字を目で追っていたら急に読んで下さいとばかりに動かない、或い は動きの鈍い文字が出てきたら読んでしまうでしょう? 今ゲームの情報画面デザインをしています。3Dで表現する物事が増えてきていますが、さすがに情報画面は そうする意味が薄いので2Dで表示します。派手に使用する場面が多くなかっただけで結構古くからゲームの 中にもモーションタイポグラフィは使われています。TVのような派手さは有りませんでしたが。でもこれ からはもっと増えてくるでしょう。ゲーム機の性能もあがっていますし。
自分で作る様になって、俄然TVの文字表示に注目する様になりました。作品や場面によって表現方法が異 なり、綺麗にまとめてある物や、感覚的に合わないもの、これ失敗じゃないの?と云う物までさまざま有り ますが、共通して言えることが一つ有りました。
美術絵画にヴァニタス画と云う類いの物が有ります。いわゆる静物画なのですが、絵画教室で練習で描く静 物画ではなく、作者がそれぞれに意味を持たせたモチーフを美的に意味の有る様に配置し描いた物です。例 えば、政治家が税金で娼婦と遊んでいると声をあげて言ったら捕まってしまう時代だったので、冠(政治 家)、巾着(金)、髪飾り(娼婦)などをモチーフとし、その流れを配置で表現する、と云ったものです。
文字を配置するのに強調とまとまりの意味を込めてラインを引きました。2単語2行で行間に線が入ってい ると、それだけでも単語の配置、線の長さなどデザインされた物に変わります。しかし単語との関連性はと 問うと、実はあまりなかったりします。
TVを見ていて思ったのはこの点です。作品として上手くまとまっているものでも文字表現以外に用いられ ている線、輪、四角、点などに意味や関連性が感じられないことが多々有りました。ただ単に流れで出すと 綺麗だから使っているのか、実は配置、動きまでからめて全てに意味が与えられているのに読み取れないで いるだけなのか、いずれにせよ文字有意性に対して余りに懸け離れているのでは?と思いたくなることが有 ります。
気が付いたからと云ってじゃあ完全な物が作れるかと云うとそうも行かないのが悲しいところですね。 モーションタイポグラフィ自体は作ってみるととてもたのしい。しかし背景を真っ白にでもしない限り何かしら 文字以外の表現が必要になってきます。何とか完璧な物を作ろうと頭をひねってはみるものの、”頭をひ ねって”るうちは多分いいものってできないんじゃないかなと思ったりします。難しいですね。